一言コラム


   『戦争は女の顔をしていない』筈なのに

 

以下は、『教会と女性』35号を準備していた5月末、1日も早い停戦を願って巻頭言に掲げたものです。ウクライナ軍の反転攻勢が強まり、追い詰められたプーチン政権が予備役30万人の動員と住民投票の結果と称する州併合を一方的に宣言した9月末、状況は益々先行きの見えない泥沼と化しています。

教区性差別問題特別委員会一同の、停戦への願いを込めて改めて掲載します。

                           2022/10/11 横浜大岡教会 水田 秀子

 

 

ロシアのウクライナ侵攻を機に、軍事的中立を保ってきた北欧二か国がNATOへの加盟を申請した。プーチンの思惑とは真逆の結果となったこの話題が新聞の一面を賑わした5月中旬、フィンランドの首相が日本を訪れた。サンナ・マリン氏、36才。2019年欧州で最年少の首相となった女性だ。恵まれた家庭で育った訳ではなく、27才で地方議会の議員に選ばれたのが政治家への第一歩だそうだ。スウエーデンの首相マグダレナ・アンデション氏、こちらは54才。二人とも前政権で重要閣僚を務めた後、トップに選出されている。奇しくも二人の女性首相が、同盟加入への舵を切ったことになる。

2021年12月、独首相を退任したアンゲラ・メルケル氏はロシア支配下の東独で牧師の子として育ち、30代半ばまで物理学の研究者だった。ベルリンの壁崩壊に衝撃を受け政治の道に入り、堪能なロシア語でゴルバチョフとの交渉の通訳を務め、頭角を現したという。歴史に「もし」はないと言われるが、もし、メルケルが更に四年在任したら、この危機にどんな働きをしただろうか。EUの盟主と言われた彼女が欧州の結束を守っていたら、プーチンは侵攻に踏み切らなかったただろうか。砲撃止まない首都キーウを訪れたEU首相フォン・デア・ライエン氏は、メルケル政権で、国防相などを歴任した女性だ。この危機に、水面下で彼女と接触を取っているかもしれない、これも夢想だ。

キーウの北方の街ブチャでのロシア軍の蛮行は世界を震撼させた。その凄惨な現場を検証したウクライナの検事総長が女性だったことにも衝撃を受けた。厳しい眼差しと、真っ赤に塗った口紅が印象的だった。今は、戦時下で始まった、戦争犯罪者の裁判の指揮をとっていることだろう。

このように、社会の上層部活躍する女性がいる一方、戦火の最前線で戦っている女性兵士もいる。陥落したマリウポリのアゾフスターリ製鉄所の地下で、夫と共に戦っている女性兵士(夫は戦死)や、捕虜となってウクライナ軍に連行されたロシア軍の女性兵士の姿が報道されなんともやるせない気持ちになった。『戦争は女の顔をしていない』(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著)筈だったのではなかろうか。士気に燃えていると言われる屈強な男性たちだって、本当は苦しくて辛くて堪らない筈なのだ。この『教会と女性』35号が刷り上がる頃には、停戦が成立していることを願うばかりだ。